2009/10/10

殺しの季節が終わり、大樹は豊かな影を揺らした

「無罪主張は悪あがき」ウィニー裁判でNHK記者“暴走”(iza)

「《弁護側がいわば的外れな見解を繰り返している間に、検察側は着々と犯罪事実の立証に足る、最低限の条件をクリアしていっています》《「悪あがき」をすればするほどあなた(=金子氏)の評価は下がる一方です》《NHKのインタビューに応じて、その行動にいたった動機を正直に話せば、世間の納得は得られる》《仮に有罪判決になってもインタビューに出て世間に本音をさらしたことで執行猶予がつくのは間違いありません》《無罪を主張し続ける限り、減刑の余地はない》壇弁護士はブログで、記者の行為を「露骨な弁護妨害」とし、地裁判決後の記者会見で、「何食わぬ顔で最前列に構えていた」ことにも不快感をあらわにしている。」

刑事訴訟法の30条1項をごらんください。

第30条

「1 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。」



もしわたしたちが何かの手違いで身に覚えのない罪の被告人とされてしまったとき、わたしたちには自己の利益を防禦する権利が与えられています。

これを弁護権といいます。

ふつう被告人になってしまった人は法律上の知識や訴訟上の経験が豊かなわけでもありません。

それどころか普通は訴追されているというだけで心理的に相当の打撃をうけています。

そして普通の素人が、国家機関である検察官の攻撃に対し、みずからの法的権利・利益を守れるはずがありません。

まして勾留されている場合は活動の自由が奪われていますので、一層その法的立場はどんどん追い込まれていきます。

だからこそ、被告人の利益擁護にあたる弁護人制度が必要となるのです。

憲法の37条3項では、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」とされています。

また同じ憲法の34条では、さらに「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」としていて、被告人及び身体を拘束された被疑者の弁護人依頼権を憲法上の権利にまで高めています。

これを刑事訴訟法ではさらに一歩すすめ、その30条1項が身体の拘束・不拘束を問わずすべての被疑者は弁護人を選任することができる、としているのです。

実は旧刑訴時代には、起訴されて被告人になるまで、弁護人を選任する権利は認められていませんでした。

戦後にできた現行刑事訴訟法が、被疑者になった段階から弁護人による保護を与えたことは、基本的人権という大樹が、長い年月をかけてのばした豊かな枝葉だといえます。

こうした現行刑事訴訟法における弁護人の立場を解釈すれば、弁護人は単に被告人の意思に従属してこれを補助するにとどまらず、自己の判断にしたがって被告人の正当な利益を擁護しこれを弁護する役目をもっているとまで言えるのです。

(以上参照:光藤景皎 刑事訴訟法 1

 

わたしたち人間は、誰しも一端権力を与えられればこれを極限まで行使しようとする性質を持ち合わせています。

そしていつの日か誤った手続きで起訴をなされ、処罰感情という刃の前に立ち震えるかもしれないのもまた、わたしたち自身なのです。

 

 

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2008/08/13

巨大なおもちゃは先祖返りした

不要と言われれば退く覚悟はできている B-CAS社 代表取締役社長 浦崎宏氏(ITpro)
「BSデジタル放送の限定受信システム(CAS)として登場し,2004年に地上デジタル放送などのコピー制御にも広く採用されてから,デジタル放送によるテレビ視聴に欠かせないアイテムとなったB-CASカード。発行元であるビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)はそれ以降,事務所就業者数20人程度の小規模所帯でありながら,一躍重大な社会インフラを担う存在となった。一方,その役割の大きさと会社規模のアンバランスさ,不透明な収支構造などに対し,ネット上などではさまざまな噂や批判の声が絶えない。」

放送法の9条9項をごらんください。

「9 協会は、放送受信用機器若しくはその真空管又は部品を認定し、放送受信用機器の修理業者を指定し、その他いかなる名目であつても、無線用機器の製造業者、販売業者及び修理業者の行う業務を規律し、又はこれに干渉するような行為をしてはならない。」


わたしたちの国が戦争に負けるまで、その放送は無線電信法により規正されていましたが、その第1条には「無線電信及無線電話ハ政府之ヲ管掌ス」と規定されていました。

戦後、こうした国家の管理があまりにも強い無線電信法は改正を強く要請されました。

日本の放送事業は昭和25年放送法が制定されるまで日本放送協会が独占的に行っていたのです。

昭和20年8月15日、日本は戦争に負けると、昭和21年には総司令部民間通信局から逓信次官に対し放送法を民主的に改正し、軍の統制、影響の痕跡を永久に除去するよう指示がなされています。

逓信省は総司令部民間通信局の指示を受けて、昭和21年11月事務次官を会長とした臨時法令審議委員会を設け通信関係法令の改正に着手しましたが、戦前から存在した日本放送協会に独占放送を続けさせようとするその案はたびたび却下されます。

その後紆余曲折を経て、放送法案は昭和25年4月26日の衆議院本会議で可決され、成立したのです。

日本放送協会はこの新放送法により、あらたに法人格を与えられて民主的な機関として再出発をしています。

終戦直後、日本のあらゆる局面がそうだったように、”国民は国家に管理されるため生まれてくる”という思想を徹底的にその体系からふるい落とすには、多分に漏れず外国による重ねてのゆさぶりが必要でした。

さてそうしてその姿を現した戦後の新しい放送法ですが、その第9条は、協会が行う業務の範囲等についてを規定しています。

そしてその9項は、無線用機器の製造業者、販売業者及び修理業者の行う業務を規律し、又は干渉してはならないことを規定しています。

これは、受信料を財源とする公共的機関である協会がその支配的地位を利用し、民間事業者を支配し干渉することを禁じたものです。

具体的には放送用機器、部品の認定を行い認定製品以外は調達しないなどの措置を講ずることにより製造業者を支配すること等を禁じています。

いうまでもなく、それは戦後に生まれた放送法が徹頭徹尾、放送の民主化、つまり国家の管理からの隔離という目的の為に生み出されているからに他なりません。(私見)

もし日本放送協会が後ろ盾になって設立された民間企業が受信料を徴収するために、「公共放送の万人の受信」を作為的に妨げる機器を審査しているのだとすれば、そもそもの放送法の成り立ちから顧みて、9条9項違反になることは明白だといえます。

 
 

(以上参照)

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2008/07/06

毎日新聞のふるまいと日刊新聞法という結界

英語版サイトに「低俗」な日本紹介記事を掲載 毎日新聞がおわび(iza)
「閉鎖されたのは、毎日新聞の英語版サイト「Mainichi Daily News」のなかの「WaiWai」と題したコーナー。「国内の週刊誌などの報道を引用し、日本の社会や風俗の一端を紹介」するとして、「日本政府は、防衛政策の広報のために小児性愛者向けの少女キャラクターを用い、『オタク』たちをひきつけようとしている」「日本の女子生徒は性的に乱れており、その一因はファストフードの食べすぎ」「高校入試を控えた息子を持つ日本の母親は、勉強前に息子と性的な行為に及ぶ」といった内容の英文記事が掲載されていた。このコーナーは2001年4月に開設され、1997年から同社の特別嘱託社員として勤務する外国人記者が主に執筆していた。」

日刊新聞特例法の第1条をご覧ください。

日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律

第1条(株式の譲渡制限等)

「一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社にあつては、定款をもつて、株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限ることができる。この場合には、株主が株式会社の事業に関係のない者であることとなつたときは、その株式を株式会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない旨をあわせて定めることができる。」

 

(以下参照:大塚将司 新聞の時代錯誤―朽ちる第四権力 東洋経済新報社)

独禁法の適用除外や特殊指定とともに、新聞業界を守護する法的鎧として存在するのが日刊新聞特例法です。

それは商法の特例法であり、新聞社に株式の譲渡制限を認め、しかも株主を「新開事業に関わる者」に限定できるようにしています。

日本の商法は、わたしたちが戦争に敗れた後、GHQによる「株式が譲渡を制限されることは認めない」という意向を受けて、株式の完全自由売買を原則としています。

実は新聞業界はその時点までもその株式を限られた人たちの間にしか流通させないことを許されてきていました。

そこでもし戦後の商法改正で譲渡制限が禁止にされると、その結界が破れることになります。

そこで当時、『朝日』『読売』『毎日』『日経』の四社が全国の日刊紙へ呼びかけ、政界への働きかけを始め、特別に新聞業界だけ譲渡制限を残そうと動き出しました。

そしてそれにより生まれたのが、現在の日刊新聞特例法だというわけです。

しかしもともとなぜ新聞社に戦前から社内株式保有制度を認められていたのかといえば、自由な言論を多数の新聞社が行うことを快く思わなかった大政翼賛体制があったからでした。

戦前における新聞社の株式譲渡制限は、報道機関に対する管理システムであったのです。

つまりかつての外部のチェック機能を働きにくくしていた社内株式保有制度という構造は、政府という主が去った後、社内の人間による言論の私物化を導きやすくしています。

そもそも戦前の日本の新聞社も、結局編集権は経営権に勝ることができず、経営者が軍に屈すると新聞という言論が戦争を支持し続け、謝った報道をしつづけてしまった歴史がありました。

たとえ新聞を法的に社内株保有制度で守ったとしても、それは報道の自由を守る構造とはなり得なかったのです。

21世紀を迎え個人発のメディアも多様化、時に有力化し、大新聞が恐竜のように唯一無二な存在だった時代は終わろうとしています。

ただし国会の中を武装した人たちに歩まれないようにするためには、他に世情を知る術をもたない全国津々浦々の人たちの手にも渡る大新聞が、その存在意義を十全に果たさなければなりません。

そのためにも新聞がにいたずらに部数増加、アクセス至上主義に走り、過度な脚色の報道をするような事態は避けなければなりません。

かつて参議院議員の羽仁五郎氏は大新聞の存在のさせ方について、「経営権、編集権、読者の真実を知る権利の三つを、最も正しい関係に配置しなければならない」と延べました。

しかしながら現代、手綱はもはやいかようにも新聞社任せであることを、毎日新聞社英文サイト事件はわたしやあなたに教えています。(私見)

 

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2008/06/27

五重の排除の理論と、這い回るミーム

【Re:社会部】「遠くの事件」に違和感(産経新聞)
「東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、加藤智大容疑者(25)が勤務していた関東自動車工業を取材し、同社の事件に対する「心情的な距離」を感じました。事件翌日の9日に開かれた記者会見。加藤容疑者が事件3日前に無断退社した様子について、同社幹部は最初、「分からない」としましたが、会見後半で突然、「ツナギがないと騒いでいた」と説明を変えました。この幹部は憮然と「(退社の経緯は)重要ではないと思っています」と弁明しました。会見前には、広報担当者が笑顔を振りまきながら対応し、報道陣から「笑い事じゃない」と怒声が上がる一幕もありました。」

放送法の3条の2をごらんください。

3条の2(国内放送の放送番組の編集等)

「放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

1.公安及び善良な風俗を害しないこと。
2.政治的に公平であること。
3.報道は事実をまげないですること。
4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」 


毎日毎日働いているのに何故か貧困が身に迫ってくるという現代のわたしたちを取り巻く問題を、個人の責任だという安直な分析から解放した岩波新書「反貧困」のなかで、著者である湯浅誠さんはこう語っています。

「これまで述べてきたことを踏まえて、私は貧困状態に至る背景には「五重の排除」がある、と考えている。

第一に、教育課程からの排除。この背後にはすでに親世代の貧困がある。

第二に、企業福祉からの排除。雇用のネットからはじき出されること、あるいは雇用のネットの上にいるはずなのに(働いているのに)食べていけなくなっている状態を指す。非正規雇用が典型だが、それは単に低賃金で不安定雇用というだけではない。雇用保険・社会保険に入れてもらえず、失業時の立場も併せて不安定になる。かつての正社員が享受できていたさまざまな福利厚生(廉価な社員寮・住宅手当・住宅ローン等々)からも排除され、さらには労働組合にも入れず、組合共済などからも排除される。その総体を指す。

第三に、家族福祉からの排除。親や子どもに頼れないこと。頼れる親を持たないこと。

第四に、公的福祉からの排除。若い人たちには「まだ働ける」「親に養ってもらえ」、年老いた人たちには「子どもに養ってもらえ」、母子家庭には「別れた夫から養育費をもらえ」「子どもを施設に預けて働け」、ホームレスには「住所がないと保護できない」1その人が本当に生きていけるかどうかに関係なく、追い返す技法ばかりが洗練されてしまっている生活保護行政の現状がある。

そして第五に、自分自身からの排除。何のために生き抜くのか、それに何の意味があるのか、何のために働くのか、そこにどんな意義があるのか。そうした「あたりまえ」のことが見えなくなってしまう状態を指す。」

また著書は2008年4月28日に出版された本書(つまり6月8日に加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が秋葉原の交差点で無差別殺傷事件を起こす約一ヶ月前)のなかで、こうも続けています。

「期待や願望、それに向けた努力を挫かれ、どこにも誰にも受け入れられない経験を繰り返していれば自分の腑甲斐なさと社会への憤怒が自らのうちに沈殿し、やがては暴発する。」

(引用:反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書 新赤版 1124)

自己責任論は、本人たちから被害者意識を払拭する機能を外装しています。

しかしながら一方で、巧妙に隠蔽された舞台的不条理が存在している場合にも、単に演者同士を破砕するだけで論を構造上の問題にまでは遡らせないという仕事を内包をもしています。

事によると国民総生産を上げるという名目のため、今日もわたしたちの暮らす社会には非常に不自然なテンションがかかり続け、その帳尻はたくさんの個人の尊厳をエアパッキンを押しつぶすように連続して自滅していってもらうことで合わせている”可能性”さえ見えてきます。

(警察庁のまとめによれば、日本の自殺者数はここ9年連続で3万人を超えています)

そしてあのTV写りのいいニュースキャスターが、いつもごく自然に口にする「最終的には本人が悪いのですが」という吐息が、社会を鈍磨させる痛み止めとして次々わたしたちの口に移植されているのかもしれません。

放送法の3条の2は、放送事業者に対して「意見の対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を要求しています。

しかしながらその要求の度合いは、視聴者の「知る権利」の保護の観点からも国家の手元を離れ、放送事業者の自主規制に委ねられているのだと通説上考えられています。

そして放送事業者はあくまでも私企業であり、彼らの収益はつまりコマーシャル枠を買い取ってくれる広告主の機嫌ひとつにかかっています。

すなわち、わたしたちの論は宿命上、広告主までは決してたどり着けないのです。

 

 


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2007/04/09

報道:凶暴で無邪気な鏡

良識を疑うTBSの取材姿勢、池袋駅前の駐停車禁止場所に堂々と駐車(LivedoorNews)
「マナー違反ドライバーや悪質ドライバーを糾弾する特集を放送しているテレビ局が、駐停車禁止場所以外であっても、そもそも混雑する東京池袋東口のロータリーに堂々と車を止めて良いはずがない。他の一般車両は順番を待っていてでも駐車場に止めている。視聴者に示しが付かないではないか。」

東京都道路交通規則の第2条4号ケ(イ)をごらんください。

第2条(交通規制の対象から除く車両)

「法第4条第2項の規定により、交通規制の対象から除く車両は、道路標識により表示するもののほか、次に掲げるとおりとする。

(4) 駐車禁止及び時間制限駐車区間の規制の対象から除く車両

 ケ 次に掲げる車両で、別記様式第2の標章を掲出しているもの

 (イ) 報道機関の緊急取材のため使用中の車両」 

わたしたちがその耳目で物事を見聞し、その心で判断することが主観、そういったものを介さずただただ事実をあるがまま記述するのが客観だといわれます。

しかし”客”にもまた属性がある以上、純粋な客観というものは存在しえません。

その理屈からおよそ報道というものにも、厳密に言って完全に公正中立なものなど存在しえません。

どのようなテレビ局にも独自の視点があり、それによって同じニュースでも、違った切り口、違った脚色によって成形された物語が、今日も茶の間に届きます。

人間がそれを作る以上、ニュースに主観が入ることは避け難いことでもあります。

しかしそれでいて尚、報道機関には”できるだけ公正中立というものを標榜しよう”という意地だけは求められています。

なぜならば、立派な報道車両や特別な道路使用許可などを与えられれば、誰しも自分達の主観に基づく報道を、主観であると疑うことが徐々に難しくなるからです。

少なくとも各種の特権を身に纏えば、「悪に見えるものを叩くことは正義である」という点には積極的な疑いをもたなくなるはずです。

わたしたちはマスコミが伝える世論から、あまり自分の心が離れないように注意深く生きています。

それゆえマスコミによる報道や世論調査は、わたしたちが自分の気持ちや現実を写すため覗きこむ鏡のようなものです。

そしてその鏡には、議題設定機能という特権が与えられています。

わたしたちは報道という鏡のいうとおり自分を取り巻く現実と自分の気持ちを認識しますが、もしその鏡が無邪気で凶暴なものならば、その先にはわたしたちを大きな後悔しか待っていません。

東京都道路交通規則2条4号ケ(イ)も標章の掲示を条件に、駐車禁止規定から緊急取材車を除外しています。

しかしそれは、なにもわたしたちが彼らの感覚、彼らの正義感を全面的に信頼し、より胸のすくような報道を期待して与えた特権などではありません。

報道機関とは、「これもひとつの主観である、しかも強力な影響力をもったそれである」という自覚をもったプロの集団であるという望みが、それを与えているのです。

 

 

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2007/04/07

お金の急流で信義は溺れるだろう

「新SASUKE」収録で5人重軽傷(スポーツニッポン)
「収録は一時中断後に続行、番組は21日に放送された。TBSは「担当者が詳細を把握しておらず、4月2日に詳しい経緯が判明した」として、3日に事故を神奈川県警青葉署に届けた。同社広報部は「今回、事前にスタッフが安全を確認していた。収録時には安全管理責任者を必ず置くように指導している。原因は調査中」と話している。(共同) 」

民法の717条1項をごらんください。

第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

「1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」 

あなたが運動施設に安全配慮が欠けていたり、欠陥があったために怪我をした場合、民法の717条の工作物責任による施設管理者・施設所有者の責任追及ができます。

土地の工作物の設置に瑕疵が、つまり欠陥があったことで損害が生じれば、工作物の占有者である施設管理者が賠償責任を負うことになります。

ただ、損害発生を防止するに必要な注意をしていた場合は、工作物の所有者である施設所有者が責任をおいます。

717条は危険責任に基づく無過失責任、つまりたとえ故意や過失がなかったとしても損害賠償を問われる責任です。

それは危険性を有する施設の管理を厳格にさせようとした規定だからです。

土地の工作物には、土地に接着して人工的に作られたあらゆる設備が該当します。

「設置・保存に瑕疵がある」とは、通常備えるべき安全な性状を欠いていることをいい、当初からそれが存在する場合が設置の瑕疵、設置後に生じた場合が保存の瑕疵です。

たとえ個別の法規に従って設置されていたとしても、事故後の判断によっては瑕疵があると判断される場合があります。

さらに設置後の事情の変化に伴って生じる危険、たとえば何人もの競技者がぬれた足でその施設を通過すれば、危険度が増すような場合にも対処できていなければ瑕疵となることもあります。

それは設置・保存行為と切り離し、工作物の客観的性状としての危険性に重点をおいて判断するのが一般的なのです。

損害の発生を防止するに必要な注意をしていた場合には、たしかに占有者はその責任を逃れ、施設の所有者に責任が移行することになりますが、必要な注意を払ったといえるためには損害の発生を現実に防止できるだけの措置が必要で、単に事故に注意してくださいなどという書面を配った程度ではその責任を逃れることはできません。

さらにこうした主催者には安全配慮義務という法的義務が課せられています。

その根拠条文は民法の1条2項、必殺の信義誠実の原則です。(以上参照:青林法律相談(28)スポーツの法律相談 青林書院)

たとえスポーツには危険が内在しているとはいえ、それを主催することにより莫大な利益をスポンサーから得るTV局、すなわち一企業には、競技参加にアクロバティックな動きを要求される参加者の安全をまず第一に確保する信義誠実上の義務があるのです。

TBS広報のいうとおり、安全管理義務者がいたとすれば、その安全配慮義務には、当然に事故発生後の公的機関への報告も含まれるものと考えられます。

なぜならばその時点で現場を保存することにより、損害の原因と法的責任の所在を明確にでき、被害を負った人の損害の回復がはかりやすくなるからです。(私見)

これを放映後までなさない態度は、スポンサーのCM放映を参加者の法的権利確保よりも優先したものだといえます。

民放TV番組制作の現場では、わたしたち一般視聴者の意見など、実際にCM料を入金してくれるスポンサー企業のそれに比べて、驚くほど軽視されているのだといいます。

コマーシャル・スポンサーはそのテレビ局に莫大な利益をもたらす最大のタニマチであり、タニマチにとってもテレビは現代最強の広告媒体です。

しかし誰かの生命や安全が、巨額を支払うスポンサーへの忠誠と比べ軽視されるビジネスがあるのだとしたら、それは法を踏みつけた商いしているといわざるをえません。

そしてそういったお金の急流はTV業界といった極限られた場所にだけ起こっており、お金のあまりの勢いに内部の人は信義則上の異議など誰も言い出せなくなっているというのが本当のところかもしれません。

 

 

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2007/03/02

義務の法定は、権利の砲門

NHK受信料 支払い義務化見送り(東京新聞)
「受信料の支払い義務化問題は、NHKで相次いだ不祥事をきっかけに受信料の不払いが増加したのが発端。現在の放送法では、テレビを持っている人はNHKと「契約する義務」はあるが、「受信料の支払い義務」は明記しておらず、法律に支払い義務化を盛り込むことで、同省は不払いを抑制する効果を期待していた。」

放送法の32条第1項をごらんください。

第32条(受信契約及び受信料)

「1 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。(以下略)」 

放送法の32条は、受信契約と受信料について定めています。

そして受信料の法的性格については、臨時放送関係法制調査会の報告が一般的に受容されています。

それによれば受信料とは、「教会の業務を行うための一種の国民的な負担であり、法律で国が協会に徴収権を認めたものであり、国による租税でも目的税でもなく、国会機関でない独特の法人として認められた協会に徴収権が認められたところの、その維持運営のための受信料という名の特殊な負担金」だということになります。

つまり維持運営のための負担金であるとすれば、その放送を受信可能な設備を持つ人は試聴にかかわらず支払うという解釈が一応可能になります。

(以上参照:放送法逐条解説 金澤薫 電気通信振興会)

そもそも協会の財政的基礎を受信料に負わせることとした32条の立法趣旨は、公平な放送内容実現のため国や広告主の意向から分離させようというものでした。

ただし1項にいう”契約をしなければならない”という義務付けは、民法の契約自由の原則上異形の文言であるといえます。

その異形は、受信料をわたしたちがNHKに直接支払うことにより、健全な経営状態と意義ある放送内容をわたしたちがスポンサーとして直接彼らに要求できる牽連関係を構築せしめようとするものなのです。(私見)

さて過失や職員の個人犯罪をカウントしないで、最近のNHKの不祥事を発覚した順にWikipediaから引用させていただきましょう。

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・2004年の7月イベント「プロジェクトX21」をめぐり、取り上げられた企業に資 料の提供と「協賛金」を要請

・~2004年、職務が変わらないにもかかわらず、年功的に昇給する「わたり」や昇給短縮が給与慣行として行われている現状を、衆議院総務委員会において公明党の河合正智議員が指摘

・2005年2月、1998~2002年にシンガポール駐在事務所に特派員として派遣されていた職員2名が総額795万円契約カメラマンの報酬金額を水増ししてNHKに報告していたことが発覚

・2005年5月、番組制作局映像デザイナー部の職員がスタジオセットのCG作成に絡み、計約470万円の経費を着服

・2006年4月、報道局スポーツ報道センターのチーフプロデューサー(43)がカラ出張を約240回繰り返し約1700万円を着服

・2006年4月、番組制作局(当時)ベテランプロデューサーが『爆笑オンエアバトル』DVD化に絡み、4年間、制作会社から交際費として現金280万円を受け取る

・2006年5月、山口放送局の放送局長(54)が出張旅費で不正な経理処理を行い約51万円(29件分)を着服

・2006年7月、NHKサービスセンター文化事業部の男性職員(38)が00~04年度にかけてNHK杯国際フィギュアスケート競技大会の当日入場券の売り上げなどを管理する口座から約370万円を着服

(出典:Wikipedia 「NHKの不祥事」より)
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実はこうして醜聞ばかりを列挙し、功績を挙げないのはフェアな手法とはいえません。

しかし放送法という法律のそもそもの目的は、放送に携わる職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにするところにあります。(1条3項)

よってその目的を達するため、わたしたちの受信料が法的義務とされる時代には、彼らの美聞醜聞にスポンサーとしての意思表示をする権利もまた牽連確保されることでしょう。

 

 

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2007/02/24

到着したら、血まみれの森

糸川議員取材記録:毎日記者が協力者に渡す ネット流出(毎日新聞)
「毎日新聞の第三者委員会である「開かれた新聞」委員会委員を務める田島泰彦・上智大教授(メディア法)の話 たとえ親しい間柄の取材協力者だったとしても、まだ報道していない取材内容をそのまま第三者に漏らした点、さらに取材相手の了承を得ていなかったという点で、信頼を損ねる行為であり、記者の倫理を逸脱している。記者としての基本的なルールを徹底させるべきだ。また詳しい報告を受け「開かれた新聞」で協議したい。」

憲法の21条1項をご覧下さい。

第21条〔集会・結社・表現の自由,検閲の禁止,通信の秘密〕

「1 集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。」 

わたしたちの暮らす世界では、事件や事象の報道はできるだけ真実に近くなされることが前提です。

なぜならばそうした誠実な報道が満ちていることで、それを見聞きしたわたしたちには正しい対策や議論を持つ機会が与えられるからです。

そしてそのことは”国民主権原理”という、いったい普段はどこに保管されているのかわからない幻のような概念を、より現実的な手段として少しでも引き寄せることを可能にします。

そのため学説上の通説は、新聞記者がもし司法の場など国家からその取材源の開示を迫られた場合、憲法の21条、表現の自由が取材から報道までを包括保障しているものと解釈し、正当にこれを拒否することができるのだと考えます。

つまりここでいう新聞記者の職業倫理とは、国家をよりわたしたちにとってコントローラブルな世界にするという高い理念を、職業人として見失わない態度なのだと言い換えられます。(私見)

そしてその目的地さえ忘れなければ、開示を要求してくる相手が一般人である場合にも、取材源秘匿が自分達の本質的素養なのだという理解が行き渡るはずです。

もしいつなんどき取材源がダダモレになるのかわからないならば、わたしたちはやたらと新聞記者からの取材に協力することができなくなり、結果的にその先には知るべき事象にいつも霧がかかったように見えにくい世界しか待っていません。

するとやがてわたしたちの一生という旅は、いつのまにかミステリー・トレインのように到着地が乗客たちには教えられない、不気味なものにすり替わってしまう可能性があります。

 

 

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2006/05/20

霊媒師は全権を委託される

Winny通信の遮断は「通信の秘密」を侵害--総務省判断をぷららが受け入れ(ITpro)
「総務省は「ぷららの措置は、電気通信事業法で定めた通信の秘密を侵すと考えられる」(総合通信基盤局消費者行政課)と判断した。通信の秘密を侵すとしても、通信や郵便事業などの「正当な業務」とみなされれば違法性はなくなる。しかし、総務省はこの点についても、「正当な業務として認められない」(同)と判断した。 」

刑法の第35条をご覧下さい。

第35条(正当行為)

「法令又は正当な業務による行為は,罰しない。」 

刑法はその35条で「正当な業務」による行為なら外見上法に触れていても処罰しないことを断言しています。

正当な業務による行為とは、社会生活上正当なものと認められる業務行為のことで、お医者さんが他人のお腹を刃物でカッさばいても、刑法第35条がこれを処罰しません。

ただし処罰されない正当業務行為というためには、それを社会が全うだと許容する内容の行為でなければなりません。

最高裁の判例も、弁護士や取材記者の行為の正当業務行為にあたるかについて、「その手段・方法が法秩序全体の見地に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである」ことを要するとしています。

また新聞記者の取材活動について,新聞記者が外務省女性事務官と肉体関係をもち沖縄返還交渉に関係する書類を持ち出させた事件では以下のような判断を下しています。

「その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは,実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。……被告人はもはや取材の必要がなくな〔った〕……後は,同女に対する態度を急変し……,加えて……その写を国会議員に交付している……〔。〕……このような被告人の取材行為は,その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上,到底是認することのできない不相当なものであるから,正当な取材活動の範囲を逸脱している……。」(外務省機密漏えい事件 最高裁昭和53年5月31日 第一小法廷決定)[出典:刑法判例百選1 総論 有斐閣] 

もともとメディアの語源は、霊媒師、メディウムです。

主役は神や霊魂(発信者)と、それを受け取る人(受信者)であり、メディウム自体は本来脇役のはずです。

しかしその代役の効かない存在のため、メディウムは古来から特別な玉座を与えられてきています。

インターネットの経路を提供するプロバイダも、それがなければ私たちは通信を互いに発信・享受することができない重要なメディアです。

それはTVやラジオなど一方向を霊媒するメディウムよりも、場合によってはさらに重要な意味を持つ双方向の霊媒という仕事をします。

プロバイダはその気になればどのようなメールがやりとりされているのかも盗み見ることもあっさりできますが、それをやらない約束(通信の秘密)が霊媒師を霊媒師たらんとする重要な要素になります。

より多くの情報を霊媒しようと神の胸ぐらを掴んだり、霊媒師の機嫌次第で神の言葉を遮断したりすることはも、はや媒体としての「正当な業務」の範囲を逸脱しています。

そしてあまりに大量の情報を処理する業務ゆえ、プロバイダは業務に正当、不当があることなどに思いが及びにくくなることもまた事実です。

 

 

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2006/01/15

泳がせ捜査の記事と報道機関の意義

「泳がせ捜査」記事でおわび 裏付け取材が不足 「組織的捜査」確証得られず(北海道新聞社)
「北海道新聞社は昨年三月十三日、朝刊社会面に「覚せい剤130キロ 道内流入?」「道警と函館税関『泳がせ捜査』失敗」などの見出しで、道警と函館税関が二○○○年四月ごろ、「泳がせ捜査」に失敗し、香港から密輸された覚せい剤百三十キロと大麻二トンを押収できなかった疑いがあるとの記事を掲載しました。これに対し道警から「記事は事実無根であり、道警の捜査に対する道民の誤解を招く」として訂正と謝罪の要求があり、取材と紙面化の経緯について編集局幹部による調査を行いました。 その結果、この記事は、泳がせ捜査失敗の「疑い」を提示したものであり、道警及び函館税関の「否定」を付記しているとはいえ、記事の書き方や見出し、裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました。 関係者と読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。北海道新聞社」

通称、麻薬特例法の第4条をご覧下さい。

国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律

第4条(税関手続の特例)

「税関長は、関税法第67条の規定による貨物の検査により、当該検査に係る貨物に規制薬物が隠匿されていることが判明した場合において、薬物犯罪の捜査に関し、当該規制薬物が外国に向けて送り出され、又は本邦に引き取られることが必要である旨の検察官又は司法警察職員からの要請があり、かつ、当該規制薬物の散逸を防止するための十分な監視体制が確保されていると認めるときは、当該要請に応ずるために次に掲げる措置をとることができる(以下略)。」 

泳がせ捜査とは、いわゆるコントロールド・デリバリーと呼ばれる捜査方法です。
 
(泳がせ捜査はマスコミ用語、コントロールド・デリバリーが正確な法学用語です。)

コントロールド・デリバリーには、禁制品を押収しないで流通させるライブ・コントロールド・デリバリーと、禁制品を無害の物品に入れ替えて流通させるクリーン・コントロールド・デリバリーとがあります。

たとえ事前に麻薬取引等を捜査当局が察知したとしても、これを泳がせて関係者を特定するためにあえて規制薬物を上陸させることは、出入国管理及び難民認定法、関税法等の関係から問題があります。

そこで「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」の要請に基づき設立された麻薬特例法3条、4条がライブ・コントロールド・デリバリーを可能としている規定しています。[参照:田口守一 刑事訴訟法 弘文堂]

泳がせ捜査は、刑事訴訟法の規定に厳しく縛られる強制捜査とは異なり、自由度の高い捜査範囲におかれている手法です。

しかしながら主に刑事訴訟法とは、真実発見の要請とともに、捜査機関の暴走が捜査対象者やその関係者が手続一般の理念であるデュープロセスの要請(憲法 31条)を破らぬよう人権保障を要請するため捜査機関に科されている枷でもあります。

すなわち刑事訴訟法自体は、泳がせ捜査が失敗し、禁制品が大量に街に出回ってしまうというような、捜査範囲外にいる人達に新しい捜査手法が二次被害を及ぼしてしまう場合を想定してはいません。

それがゆえに、新設された麻薬特例法の4条は、「当該規制薬物の散逸を防止するための十分な監視体制が確保されていると認めるとき」に限って、この泳がせ捜査という国家の中に毒を飲むような危険な捜査権を与えているのです(私見)。

今回の北海道新聞は、コントロールド・デリバリーという捜査手法による派生被害を報道しましたが、十分な裏付け取材がどうもなかったようです。

しかしながら泳がせ捜査、またおとり捜査というような新しい捜査手法の周辺には、ともすれば捜査による二次被害がやすやすと発生しやすく、同時にそれが公になる可能性は非常に低いといえます。

そうだとすれば報道機関にあっては、取材ミスの判明などで今後腰が引けてしまうようなことなく、裏付けできた範囲の記事においてはより積極的に公表していってもらう必要があります。

なぜならば、そういう現場こそまさに報道機関がその存在意義を十全に実現できる場面に他ならないからです。

 

 

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