2007/05/01

せめてアポリアーを知れ

B型肝炎感染者から腎移植 肝障害発症し死亡(読売新聞)
「万波誠医師は29日、読売新聞の取材に応じた。一問一答は次の通り。――ドナーがB型肝炎ウイルスの陽性だったことは知っていたのか「移植前の検査で感染性が高い抗原は検出されず、肝炎は沈静化していた。相談した内科医にも『感染の恐れはない』と言われた。感染力のある腎臓なら移植するはずがない」――ドナーがB型肝炎ウイルスの陽性であることを男性に説明したのか「それは覚えていない」」

ヘルシンキ宣言の22条をご覧下さい。

ヘルシンキ宣言 ヒトを対象とする医学研究の倫理原則

「22 ヒトを対象とする研究はすべて、それぞれの被験予定者に対して、目的、方法、資金源、起こり得る利害の衝突、研究者の関連組織との関わり、研究に参加することにより期待される利益及び起こり得る危険並びに必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなければならない。対象者はいつでも報復なしに、この研究への参加を取りやめ、または参加の同意を撤回する権利を有することを知らされなければならない。(以下略)」 

1947年、第二次世界大戦下におけるナチスドイツの人体実験に関してニュールンベルク国際法廷が開かれました。

そこでは人類が医学研究の名においておぞましい人体実験を行ってしまった事実への反省と、被験者の人権尊重を趣旨として、ニュールンベルク綱領が示されました。

そしてそれを基本に、世界医師会1964年のヘルシンキ総会は、人体実験法に関する倫理綱領であるヘルシンキ宣言を採択しました。

ヘルシンキ宣言の1975年改訂では、インフォームド・コンセント、すなわち”内容がはっきり知らされた上で、被験者や患者が研究や治療へ同意する”という概念を提唱し、のちにインフォームド・コンセント(以下IC)概念が世界の医療界に普及するきっかけをつくりました。(生命倫理事典 太陽出版)

臨床研究であれ、非臨床的医生物学的研究であれ、結果的に患者が医師に身を任せる前には、十分にICが尽くされることが、両者にとって極めて重要になっています。

それは医療知識とその処理判断を専占することで、医師が患者の上位に立ち、それにより数多の責任回避が意識的、無意識的に図られてきたこれまでの構図を、お互いのため発展的に解放しようとするものです。

かつてヒポクラテスが「礼儀について」のなかで語っていた「患者の前ではたいていのことを隠さなければならない」という教えが初めて破られたのは、1972年、米国病院協会による患者の権利章典によってだといいます。

ただし、患者さんにどういう説明を行い、どういう臓器を生体移植するのかなどという権力行使を自己操縦するための、いわゆる”医療倫理違反”と、医学発展のために欠かせない”臨床研究”の境界は、いまだ法的責任を伴った明確な定義はなされていません。

ところで職業人の倫理、いわば”徳”とは、どのようなものをいうのでしょう。

たとえばプラトンの著書「メノン」では、貴族の青年メノンがソクラテスに”徳とは何か”を問い続けます。

その中でソクラテスが”僕も徳とは何であるかということがわからないから、いっしょに探求するつもりだ”というと、「いったいあなたは、それが何であるかがあなたにぜんぜんわかっていないとしたら、どうやってそれを探求するおつもりですか?」と青年は問いただします。

ソクラテスの答えは、「それは想起(アナムネーシス)することによって、既に知っていることに思い至るのである」というものであり、「徳それ自体はそもそも何であるかという問を手がけてこそ、はじめてわれわれは知ることができる」のだとしています。(メノン プラトン 岩波書店)

目を凝らしてその本質を見ようとした人にだけ、徳は一つしかない真の形を見せようというのです。

いろいろな職業のわたしたちがちょうどそうであるように、お医者さんも手術台を前にしてその徳は必ずしも一様でないかもしれません。

けれどわたしやあなたの、そしてその家族の命を扱うお医者さんが備えた徳だけは、自己流のそれではあって欲しくないものです。

 

 

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2007/03/19

魔法の国の救急車が交差点をパレードする

TDR救急車が衝突、横転/女子中学生ら4人軽傷(四国新聞)
「18日午前10時25分ごろ、千葉県浦安市舞浜の交差点で、東京ディズニーリゾート(TDR)を運営する「オリエンタルランド」所属の民間救急車がトラックと衝突した。救急車は横転し、乗っていた中学3年女子3人=いずれも(15)=と同社の女性看護師(26)が、あごなどに軽いけがを負った。浦安署の調べでは、救急車が赤信号で交差点に進入、右側からきたトラックと衝突した。女子生徒の1人が発熱したため、付き添いの2人を乗せて病院に搬送中だった。3人は神奈川県茅ケ崎市から東京ディズニーランドに遊びに来ていたという。」

消防救の第116号別添1指導事項の9をごらんください。

消防主管部長あて消防庁救急救助課長通知

「9 車両の外観

患者等搬送用自動車は、サイレン又は赤色警告灯を装備するなど、救急自動車と紛らわしい外観を呈していないこと。」 

民間救急車は、「民間患者等搬送事業」と呼ばれ、消防庁の指導基準に基づいています。

消防署にある救急車への出動要請は毎年増加しており、その中には必ずしも救急車の赤色灯による交通法規外の通行を必要としないケースも数多く存在します。

そのため消防庁は一定の基準を定め、患者等搬送事業を指導する際の基準として、消防救第116号により、患者等搬送事業指導基準と、指導基準に適合する事業者を広く住民に公表するための事務処理基準として患者等搬送事業認定基準を示しました。

これにより消防機関による患者等搬送事業に対する指導が全国的に開始されたのです。

よって民間患者等搬送事業者は、消防機関の認定と指導を受けることを条件に運行されていることになります。

しかしそれは救急車と全く同じ路上の権力を付与されている車ではなく、消防救第116号によれば、民間救急車にはサイレンや赤色灯を使うことが許されていません。

民間救急車はあくまで緊急性を伴わない患者さんの搬送を行う事業であり、赤色灯とサイレンで通常の交通法規を曲げることをわたしやあなたが許した消防署の救急車両とは同じでないからです。

*追記

読者の方から、以下のようなご指摘のメールをいただきました。

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今回事故を起こしたオリエンタルランドの「救急車」は、ご指
摘のような「患者等搬送用自動車」ではありません。
この自動車は、同社が千葉県公安委員会に緊急自動車「救急用
自動車」としての届出を行い、受理された道路交通法上の「救
急用自動車」です。したがって、外観は白色で赤い帯があり、
サイレンも警光灯も備え、患者の状況に応じて、緊急走行や通
常走行を行っています。

法的な根拠は素人で判然としませんが、緊急自動車であること
は間違いありません。(道交法上の届出が許されている「医療
機関」として扱われているのかな?)

ちなみに、現在はTDLとTDS用に各1台、計2台を保有(このうち
の1台が今回の事故の当事者車両)しています。
また、緊急性を伴わない医療機関等への搬送については、通常
のワゴン車などを改造した車両(8ナンバーですが当然緊急自
動車ではありません)数台も併せて配備されています。

なお同社は、消防用自動車(ポンプ車)も緊急自動車としての
届出を行い保有しています。

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オリエンタルランドの救急車は厳密には新聞記事中にあるような”民間救急車”などではなく、公安委員会から許可を受けた正式な緊急自動車だということです。

丁寧なご指摘どうもありがとうございました。

追記の上修正させていただきます。

 

 

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2007/02/21

ファルマコン:魔力の草

愛知・蒲郡の中2転落死:タミフル処方を調査 輸入販売元に情報請求--厚労省(毎日新聞)

「生徒は16日朝、市内の医院でインフルエンザと診断されタミフルを処方された。1人で自宅にいた同日午後0時45分ごろ転落。同県警蒲郡署の調べで、タミフル1錠がなくなっていたことが分かっている。」

薬事法の69条第1項をご覧下さい。

第69条(立入検査等)

「厚生労働大臣又は都道府県知事は、医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは医療機器の製造販売業者、製造業者、第14条の11第1項の登録を受けた者、医療機器の修理業者又は(条文略)に基づく命令を遵守しているかどうかを確かめるために必要があると認めるときは、当該製造販売業者等に対して、厚生労働省令で定めるところにより必要な報告をさせ、又は当該職員に、工場、事務所その他当該製造販売業者等が医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは医療機器を業務上取り扱う場所に立ち入り、その構造設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは従業員その他の関係者に質問させることができる。」 

(以下参照:新・薬と社会と法 法律文化社)

すべからく薬というものには、副作用が存在しています。

しかし不良とよべるほどの副作用が疑われる薬があれば、厚生労働大臣や都道府県知事などは、69条により関係者に対して必要な報告を求めたり、立ち入り検査をすることができます。

そして製造や輸入の承認を与えられた医薬品が承認拒否事由に該当するときは、厚生労働大臣は、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その承認を取り消さなければなりません。

また再審査、再評価に際し、定められた期限までに資料を提出しなかったり、不正な資料や基準に適合しない資料を提出したときは、承認の取り消しまたは承認事項の変更を命じられることがあります。

なお、承認を取り消された場合は、製造や輸入の許可は取り消されたものとみなされます。

ギリシャ時代、現在のドラッグという言葉の起源であるとされるファルマコンという言葉が、”薬品・毒薬、あるいは魔力を持つ植物”という意味で使われています。

19世紀にはゼルテュルナーが阿片からモルヒネを抽出し、薬は工業製品時代に突入しますが、薬に効能と同時に弊害が存在するという側面はいつの時代も変わっていません。

かといって薬の研究・発展は社会にとって不可欠であり、わたしたちはいたずらに立ち止まるわけにはいきません。

そのため法はあらかじめ薬がもたらす危害の拡大を警戒し、より慎重な対応方法を用意しています。

あとは製薬関係者がどこまで誠実に情報を開示するつもりがあるかが、薬事法の実効性を担保するはずです。(私見)

 

 

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2006/10/03

臓器への小径を金貨で埋めよう

愛媛・臓器売買事件 担当医師『氷山の一角』(東京新聞)

「記者たちにその責任を追及された万波医師は、防止策の難しさをこう強調した。「いくら調べても患者にだまされることは防げないと思う。(臓器売買は)氷山の一角ではないかと、全国の医師が思っている。兄弟間でも金銭の授受はあるかもしれない。(移植の)背後で何が行われているかは分からない」 臓器移植法が一九九七年に施行されて以来、懸念されていた臓器売買が摘発された事態を関係者はどう見るのか。万波医師が言うように“氷山の一角”なのか。」

臓器移植法の11条の1項、2項をご覧下さい。

臓器の移植に関する法律

第11条(臓器売買等の禁止)

「何人も、移植術に使用されるための臓器を提供すること若しくは提供したことの対価として財産上の利益の供与を受け、又はその要求若しくは約束をしてはならない。

2 何人も、移植術に使用されるための臓器の提供を受けること若しくは受けたことの対価として財産上の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。(以下略) 」 

臓器移植とは、臓器の機能に障害のある人に臓器の機能の回復又は付与を目的として行われるものです。

それは不全な臓器を薬で治していくこととは違い、健康な臓器と一切取り替えてしまう点で根治治療であり、当然大きな治療効果が得られます。

ただし他人の臓器を移植するという行為の性質が、通常の医療行為と比較して臓器移植を非常に特殊なものにしています。

ましてや臓器を経済取引の対象とするなど、わたしたちの感情に著しく反しますし、それはお金持ちだけが常に命を助かるという結果を招き、さらに臓器移植の基本的な考え方である「善意・任意」という前提がただのキレイゴトに貶められます。

このため臓器移植法の第11条1項と2項は、臓器売買を完全に禁止しています。

なおその目的を達成するためには、臓器の提供・受領の前段階の行為である約束等についてもこれを禁止することが必要で、よって「要求」、「約束」及び「申込み」についても同じく明文で禁止しているのです。

これらの規定に違反して臓器売買に関与した場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はそれらが併科されます。

(以上参照:逐条解説 臓器移植法 厚生省保健医療局臓器移植法研究会

臓器売買をとりまく法環境の素地には、「人間はどこまで自分の体を換価することが許されるか」というモラル、あるいは社会の安寧に関わる未解決の問題提起が横たわっています。

国家の出動を最小限に抑え、自己統治を最大限にすべきと考えるリバタリアンにとっては自己の臓器を売却することは自己の当然の権利だということにもなります。

極論を用いればそういうことです。

しかし世界の多くの先進国から遅れを取っていた日本が、臓器移植以外に治療方法がない患者を救うために平成9年やっと立法化したのが「臓器の移植に関する法律」だったように、欧米的合理主義による人の臓器の扱いと、儒教の色が人の意識にまだ濃く残る我が国のそれとの間には未だ相容れぬものが存在しているのも事実です。

持病に苦しむ人たちの立場に立てば、かならずしも現在の価値観は絶対正解ではないかもしれず、いつの日か人の体の扱いは場面場面でもっと合理的になる日がくるかもしれません。

しかし現在のところ臓器移植法の11条は、人の臓器が商材のように取り扱われる日がくることを警戒し、その派生理論をダムのようにせき止めています。

臓器を完全に自由に処分してよい、そういったリバタリアニズムを法が採用することは、あなたの臓器や角膜の経済的処分を求めて、あなたの債権者があなたを追い込む日を許容するやもしれません。

いや、もはや私たちの知らないその市場は、実はすでに完成していて法の外で運営されている可能性も大いにあります。

ただし私やあなたは、「金銭との見返りにあなたのいらない臓器をくれ」と頼まれれば、「それは法に反することかもしれない」と直感的に感じることができる生き物です。

何故どのような理論も借りず皆がそう感じるのかは、より優れた臓器提供のシステムを今後構築していく上で、無視してはならない鍵でありつづけます。

 

 

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2005/11/14

タミフルによる異常行動死とインフォームドコンセント

インフルエンザ治療薬 タミフルで異常行動死(東京新聞)
「岐阜県の男子高校生=当時(17)=はインフルエンザと診断され、タミフル一カプセルを服用。一時間半後、家族の留守中にはだしで家を出て、フェンスや塀を乗り越えるなど異常行動を取り、自宅近くの国道に飛び出し大型トラックにはねられて死亡。今年二月には、愛知県の男子中学生=当時(14)=がインフルエンザにより処方された一カプセルをのみ、約二時間後、自宅マンションの九階から転落し死亡した。」

民法の645条をご覧下さい。

第645条〔受任者の報告義務〕

「受任者は委任者の請求あるときは何時にても委任事務処理の状況を報告し又委任終了の後は遅滞なく其顛末を報告することを要す」 

お医者さんが患者に投薬内容や手術方法などを説明する義務は、医療という準委任契約上の付随義務であると考えられます。

そもそもお医者さんという見ず知らずの人にお腹をメスでパックリ切断されてもまったく刑法が出動しないのも、私たち患者の側に十分な選択肢としての情報が供給され、自分自身がそのお医者さんにお腹を切断してもらうことに同意するからこそです。

これをインフォームドコンセントと呼び、インフォームドコンセントという概念を支えているのが、患者の自己決定権と呼ばれるほぼ確立された権利です。

十分な情報の事前提供をしないで医師が医療行為を行った場合、わたしたちの自己決定権が侵害されたと見なせるため、手術自体の成功、不成功にかかわらず医師には債務不履行や、不法行為があったと見ることが可能になります。

事実、かつて手術が成功したにもかかわらず、「宗教上、あれほど輸血をしないでくれといったのに手術で輸血をされた」と患者が訴え出た有名な判例があります(平成10年2月9日)。

そこで東京高裁は、まず手術前の無輸血手術の合意について「人が信念に基づいて生命を賭しても守るべき価値を認め、その信念に従って行動することは、それが他者の権利や公共の利益ないし秩序を侵害しない限り、違法となるものではなく、他の者がこの行動を是認してこれに関与することも、同様の限定条件の下で、違法となるものではない」としました。

医師の側は「輸血に関する治療方針について説明すればX1が手術を拒否すると考えてあえて説明しなかった」と主張していました。

しかし高裁は「自己決定権を否定し、いかなる場合であっても医師が救命のため手術を必要と判断すれば患者が拒否しても手術をしてよいとすることに成り兼ねないものであり、是認できない」とまでして、説明義務違反に基づく不法行為を理由に精神的損害についての賠償を認めています(以上参考:憲法判例百選(1) 有斐閣)。

どのような薬を飲むのか、その薬は過去にどのような事故例があるのか、薬を飲まずに済む選択肢はあるのかなど、事前に正確に知らされる権利は、私やあなたの今後の一生に起きうる振れ幅を知らされた上で自己責任で判断するための極基礎的データです。

患者である私やあなたがどうした形の人生を送りたいかという決定は、医療情報を独占して私たちの前に座っているお医者さんの業務上よかれとおもう気持ちとは、別の高次にあるのだと高裁は判断しています。

そしてそれゆえに、医師の説明義務の範囲をより広く要求しているのです。

 

 

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2005/09/21

保険業法施行規則が除外する善意の提供者

51歳から54歳に拡大/骨髄バンクの登録年齢の上限(秋田魁新報社)

保険業法施行規則の第4条をご覧下さい。

第4条(疾病に類する事由)

「法第3条第4項第2号ニに規定する総理府令で定める事由は、次に掲げる事由とする。
一 出産及びこれを原因とする人の状態
二 老衰を直接の原因とする常時の介護を要する身体の状態」 

骨髄とは、わたしたちの胸や腰の骨の内側に存在する、ゼリーのようなやわらかい組織のことです。

その骨髄には血を作る機能をもったものがありますが、その機能が正常に働かない場合、未熟な白血球が異常に増えてしまう場合があります。

白血病とは、そういった状態の血液の癌のことです。

(癌とは異常細胞の増殖のことです。)

骨髄移植とは、誰かから提供された正常な骨髄を患者に移植して、正しい造血機能の回復を試みる治療法のことです。

そして骨髄バンクとは、骨髄移植を待つ患者の登録データと、白血球の型が適合する骨髄をもつ健康な人の登録データのマッチングを扱う組織であり、提供者と患者の相性があったときにこの仲介を行います。

ドナー登録が始まったのが1992年。

映画「世界の中心で、愛をさけぶ」、いわゆる”セカチュー”のヒロインが冒されてしまう難病が白血病ですが、舞台設定当時の1986年当時には骨髄バンクがなかったため、治療の甲斐なく彼女は死んでしまいます。

現在では運営されている骨髄バンクですが、保険業法施行規則はその第 4条で「疾病や傷害に類する、内閣府令で定める例外」として出産関係と老衰介護関係だけを保険の対象としているため、骨髄提供者が受ける骨髄採取手術に対しては保険が下りません。

提供者はあくまで健康な人だからです。

このためコスト高に苦しむ関係者からは、早く「骨髄提供」という項目が保険業法施行規則 4条に追加され、骨髄提供に保険が下りるようになり骨髄バンクの運営がよりスムーズになることが望まれています。

映画で言う「世界の中心」とは、具象的にはオーストラリアの先住民族にとってのひとつの神聖な場所をいいますが、暗喩としては極内面的なもののことをいっているのかもしれません。

パリの度量衡万国中央局には世界の計量を司るメートル原器とキログラム原器が厳重に保存されています。

もし私が今思っているものが、作者の描いた「世界の中心」がなのだとしたら、そこにはルールのゆがみを矯正する”幸福原器”が保存されているはずです。

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2005/09/20

セカンドオピニオンという法の外灯

セカンドオピニオン 最適な医師・治療選びに活用を(日経BP)

民法の644条をご覧下さい。

第644条〔善管注意義務〕

「受任者は委任の本旨に従ひ善良なる管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負う」 

委任とは、自分の仕事や取引などを誰かに頼んで代行してもらう契約のことです。

わたしたちはお医者さんにかかるとき、一種の契約を結んでいますが、この医療契約は法律行為ではないので、委任ではなく準委任だと考えられています。

セカンド・オピニオンとは、患者が自分の今かかっているお医者さん以外のお医者さんに自ら意見を聞きにいくことです。

民法上は、地元のお医者さんに内緒で街の大学病院にかかったときは、医療契約がそれぞれ成立していることになり、この時点では644条という法的義務の片手はどちらのお医者さんの肩にも乗せられています。

医療契約が一応どちらとも成立しているといえるからです。

受任者の善管注意義務という民法644条は、どちらの病院にもあなたにとってベストと思われる診断を出すことを医師たちに要求しているのです。

そしてその後もし地元のお医者さんでなく、街の大学病院で本格的に見てもらうことになったら、地元のお医者さんとの医療契約は一旦終了し、大学病院との契約が新規に成立することになり、これによって民法が受任者に負わせる善管注意義務という手は、大学病院の肩にだけ乗せられ、最後まで彼らにベストを尽くさせます。

そもそも医療契約は行為債務なので、やることさえやっていればよく、必ずしも全快が債務の本旨に従った履行だとはいえません。

全力をつくしていなければ644条違反で不完全履行となるとはいえ、腕のない医師が彼なりに全力を尽くしたなら、契約義務上はたとえ患者が死んでも違反があったとはいいづらいのです。

かつて平成 7年6月 9日という判例で、最高裁は、「医療機関が当時比較的新しかった治療技術を実施せず、それが実施可能だった他の医療機関にも転医させなかった時は、診療契約に基づく債務不履行責任を負う」として、その病院の「地力」外の技術を提供できなかった病院の責任も認定したこともあります(判旨意訳)。

しかし私たちは、とりかえしのつかないことになってから法廷でなど争いたくありませんので、結局私たちの最初にやるべきことは、あらかじめそのお医者さんに用意されている経験値や設備などの、病院の「地力」を探ることなのだということになります。

そしてセカンドオピニオンを探る私たちに、ファーストオピニオンと違った治療方法が提示されれば、医学知識など私たちになくとも、各病院間にはあきらかにそういった地力の違いがあることが透けてわかるはずです。

民法644条という委任者のために用意されたツールを上手に使って、私たちはあらかじめ医療過誤という闇の外側を歩かなければなりません。

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2005/09/19

アシュリーの手を引くプロジェリアという運命

早老症が老化の秘密を解き明かすかぎに(Yahoo)
「早老症とは、加速性の老化が特徴の非常にまれな(400万人に1人)小児の遺伝子疾患である。関節、皮膚、その他の問題に加えて加速型の心疾患を発症し、ほとんどが20歳前に心臓関連の合併症で死亡する。」

刑法の134条第1項をご覧下さい。

第134条〔秘密漏示〕

「1 医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産師,弁護士,弁護人,公証人又はこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。(以下略)」 

生物には老化しないものもあり、イソギンチャクなどは何十年も衰えることなく生きていきます。

その意味で、老化とはよく言われるような生物共通の自然淘汰のプログラムなどではなく、有性生殖を行う生物だけの特徴です。

わたしたちがさまざまな苦しみや体験を乗り越えて、生殖に適した年齢に達することは生物学的にひとつのサバイバルを達成しているといえます。

生殖という一大使命を達成した私たちは、もはやその機能を保全する必要性が薄くなり、老化が始まるのだと考えられています。

しかしまれに生命の設計図ミス、すなわち遺伝子の変異により、生殖年齢に達するまで働くはずの機能保全が最初からなされない場合があります。

そのひとつが早老症、いわゆるプロジェリアです。

それは出産前の胚の時期にある遺伝子の1つのコピーに突然変異が生じ、身体のシステムが速やかに壊れてしまい、子供であろうとも老人のような姿に変わってしまうものです。

そして遺伝子変異には、もうひとつハンチントン病という病気があり、こちらの発症は中年以降に神経系が壊れ、死を招きます(参照:エイジング研究の最前線 別冊日経サイエンス)。

どちらも遺伝子という生命の設計図にミスが起こったことから招かれる悲劇ですが、かつてハンチントン病には遺伝病として近親者にこれを告知すべきかが争われた事例がアメリカで1980年代にあったと記録されています。

当時の医学では近親者の遺伝病のリスクを検査するには、罹患していた当人の協力が必須でしたが、彼女はハンチントン病を恥じ、また解雇をおそれて近親者への告知を拒みました。

日本の刑法の場合、134条が医師等の守秘義務違反に制裁を定めており、たとえ検査をすることで兄弟姉妹や子供達の生命が守られるのだとしても、道義を盾に秘密の開示を医師が強制することはできません。

なおかつ、たとえ遺伝的要素が強いと推測される領域であっても、必ずしもその検査の必要性が証明されているわけではありません。

よって医師の守秘義務と道義的警告義務の対立は前者に重く傾くことになります。

刑法134条が社会の安全の要請の前に、まず個人の尊厳を置いているのは、憲法上の要請も強く働いているからです(私見)。

アシュリー・ヘギという有名な少女が生まれてきたとき、そこにはもうプロジェリアという遺伝の運命が座っていました。

母親は運命に立ち向かう彼女の姿を決してかつらなどで隠そうとはせず、生命という存在に恥ずかしいものがあろうはずもないことを表現することを選びました。

そこには警告による遺伝子変異という状態の開示という消極的選択はありません。

瞬間瞬間を堂々と生きていくために、罹患を宣言して人の尊厳を提示し続けるという選択だけがありました。

そして彼女を見守る私たちに求められているのは、アシュリーでなく私やあなたであったかもしれないということを想像できる能力だけです。

遺伝というシステムの研究はまだ黎明期にあります。

そしてそれを進歩させるのは、私たちのそうした想像力であることは、きっと言を待ちません。

 

 

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2005/06/07

特定病院という金看板下で執刀を訓練しよう

「特定病院」承認取り消し 厚労省医療分科会(Yahoo)
「厚生労働省の社会保障審議会医療分科会は6日、心臓手術を受けた患者4人が相次いで死亡した東京医大病院(東京都新宿区)について、高度な医療を提供する「特定機能病院」の承認を取り消すことを決めた。」

医療法4条の2をご覧下さい。

第4条の2〔特定機能病院〕

「病院であつて、次に掲げる要件に該当するものは、厚生労働大臣の承認を得て特定機能病院と称することができる。
 一 高度の医療を提供する能力を有すること。
 二 高度の医療技術の開発及び評価を行う能力を有すること。
 三 高度の医療に関する研修を行わせる能力を有すること。(以下略)」

特定機能病院とは、上の条文に書いてあるような要件を満たし、厚生労働大臣から特定機能病院と称することを承認された病院のことです。

特定機能病院には特殊で最先端の治療機器、先端技術を備えた医師が存在すると4条の2で認定されています。

このため、この資源を有効活用するために患者はまず一般病院にかかり、治療に特定機能が必要だと認められる患者だけがその一般病院からの紹介状をもって特定機能病院の門を叩くことが許されています。

そしてもしその紹介状がない患者が特定機能病院にきた場合は、初診料のほかに数千円の特別料金が課せられます。

つまりこういった希少な病院の敷居を一旦高くして、ただの風邪や胃炎などの通常の患者が大学病院など権威有る病院に集中しがちな事態を避け、本当にその機器や技術が必要な患者が優先的、効率的に治療を受けられるようにすることで医療全体の機能を活発化しようとした、それが改正医療法4条の2の設立趣旨のようです(私見)。

するとおのずと患者数が限られてくる特定機能病院に対して、国はその穴を埋めるため金銭的な優遇措置を与えています。

そしてその特権を獲得し続けるために、特定機能病院は医療法のなかで設けられた数々の義務をクリアしなければなりません。(第4条の2第1項各号、第12条の3、第24条第2項等。)

仮にもしそれらのハードルにつまずいたとみなされた病院は、医療法29条4項 1号により特定機能病院の認定を厚生労働大臣により取り消され、特権も失うことになります。

いわば医療法4条の2の保護法益は医療制度全体の効率化による私たち国民の健康維持であり、決して病院の偏差値により国から金銭的インセンティブと威光を与えようというところにはありません。

東京医大病院に与えられていた特定機能病院という看板の下、送り込まれてきた患者は、先端技術を期待していただけであり、金看板の館で未熟な医師に繰り返しモルモットにされる事態は想定していませんでした。

またその指導教授も、先端技術にたずさわる学者である前に、患者の生命の前には一職業人として彼の執刀”訓練”を辞めさせるべきでした。

金看板を失って、明日から象牙の塔は町医者の仲間に戻ります。
 

 
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2005/04/07

薬害エイズと届かなかった応用憲法

検察側が上告断念へ 薬害エイズ事件(産経新聞)
「血友病患者の死亡は元帝京大副学長、安部英被告の起訴事実でもあるが、東京高裁は心神喪失として公判を停止。薬害エイズ事件の核心部分だった血友病患者の被害は、誰も刑事責任を問われないまま終わる可能性が強くなった。」

刑事訴訟法の405条をご覧ください。

第3章 上告

第405条〔上告のできる判決、上告申立理由〕
「高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
① 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
② 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
③ 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。」 

上告とは高等裁判所の判決に対する最高裁判所への不服申立てのことです。

最高裁は審級制度の最後に出てくる例外的機関であり、405条によって各法律が憲法に違反していないか、また前に出た判例と違った判断を高裁がしていないかだけを判断することになっています。

原則的にその玄関を非常に狭くつくってあるわけです。

その理由はルールのルールである憲法や、社会が認知している判例をやたらと判断の素材に持ち出すことは、法律をシャーシに駆動する社会の安定を妨げ、最終的には憲法の権力根拠であるはずの私たち一人一人の地位を解釈のたび不安定にする危険があるからです(私見)。

刑事訴訟法は有罪の者を逃さないという「必罰主義」と呼ばれるハードな考え方と、無実の人は誤って有罪にしないというソフトな考え方を両輪に動きます。

しかしその上位法である憲法のなかには10ヵ条に及ぶ刑事訴訟法に関する条文が定められ、人権保障と必罰主義との利益衝突がある場合には憲法の要請する人権保障が優先するという価値判断が表現されています。

刑事訴訟法がその別名を応用憲法と呼ばれるのはこのためです。

薬害エイズの亡くなった方に対する責任を当時の公務員たちにとらせることは事実上ムリな様子になってきました。

しかしそのことをもっていたずらに私たちは訴訟法というルールをより罰しやすく改変すべきではありません。

憲法の精神に則った手続き法を固守していくことが私たちの未来のために求められるのです。

あなたが明日間違って逮捕され、何十年も家族と別れる羽目になる危険はあなたが思うほどレアな確率ではありません。

ここ日本で一年に起こる冤罪の数は小さなものを含めれば数千件に及ぶといわれています。
 

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2005/03/25

そこにいるのは自分の家族だと知れ

薬害エイズの元厚生省課長、2審も有罪判決(読売新聞)

「東京高裁裁判長は「非加熱製剤に高度な危険性があることを把握した以上、その使用を控えさせる義務があった」と述べ、安全な加熱製剤承認後に感染した1人についてのみ有罪とした1審判決を支持、検察・弁護側双方の控訴を棄却した。 」

刑法の211条をご覧ください。

第211条〔業務上過失致死傷等〕

「1 業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。 (以下略)」

刑法では,わざとやらかした故意犯だけを罰するのが原則です。

うっかりやらかした過失犯に関しては、特に規定のある場合にだけ罰せられることになっています。

それだけにあえて「うっかりやらかした人でさえ罰する」とはっきり書いてある罪に関しては社会的にあらかじめ重大な業務責任が科せられていると考えられます。

それは約190ある刑法が決めた罪のなかで
・失火罪、
・過失激発物破裂罪、
・業務上重過失失火罪・業務上重過失激発物破裂罪、
・過失浸害罪、
・過失往来危険罪、
・過失傷害罪、
・過失致死罪、
・業務上重過失致死傷罪
以上のたった8条だけです。

元厚生省生物製剤課長という椅子に座るにあたり、業務に必要とされる予見義務を想起するのは普通の人にとってはそう難しくありません。

「汚染された非加熱血液製剤を投与されるのが、もし自分の家族ならどうすべきか?」

その椅子にすわるときは、ただそれだけをいつもイメージして仕事ができればよかったのですから。
 


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2004/12/12

心良い人も塔の中で黒くなる

遺族ら真相究明求める 東京医大の手術患者3人死亡で

「長女は「母は手術前日まで元気だった。手術時間が医師の事前説明よりもはるかに長くかかり、おかしいと思っていた」と話した。長男は「実際に何があったのかはっきりすれば納得できる。きちんと調査し、過ちであれば正されるべきだ」と訴えた。 」

民法の709条をご覧下さい。

第709条〔不法行為の要件と効果〕

「故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず」 

医療過誤による医師の責任は,医療契約に基づく債務の不履行を根拠に追及することも,不法行為を根拠に追及することもできます。

債務不履行を根拠とする場合には,責めに帰すべき事由がなかったことを債務者である医師が立証しなければならず,その点で被害者に有利であるとされます。

しかし判例上は,被害者の感情を反映してか,不法行為の問題として処理されることが圧倒的に多いようです。

不法行為による場合,被害者は,医師の過失を立証しなければならず,この点が医療過誤訴訟では最大の争点になるのは、ドラマ「白い巨塔」でもおなじみです。

しかしまずその前に、医者という一人の職業人を、権威を理由に訳もなく崇める習慣を皆で改めなければ、いつまでもこうした事故が生まれる素地が払拭できないのは間違い有りません。
 


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2004/12/04

ニセ医師による開腹手術に彼女は同意した

医師かたり“中絶手術”・腹部切開した男を逮捕

「女性は独身で、事件の数日前、携帯電話でインターネットの医療相談掲示板におなかが大きくなりすぎておろせないなどと書き込み、山下容疑者が何度も同じような中絶をしたことがあるなどと持ち掛け、白衣で“執刀”したという。」

刑法の204条をご覧下さい。

第204条

「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」

このように、被害者があらかじめ傷害や殺人に同意していた問題を「被害者の同意」問題と呼びます。

被害者の同意は、法益保護の必要性が外見上失われますので、被害者の個人的法益の保護を目的とした犯罪については少なくとも違法性の阻却される事由になります。

しかしたとえそれが個人の体や命に対する罪でも保護法益の重大性から被害者による個人的な処分など許さない場合があります。

傷害罪についても、明文で規定はありませんが公序良俗に反すれば同意があっても違法性は阻却されないとするのが通説です。

ただこの場合、堕胎手術の依頼という動機に、男がニセ医者だったという錯誤があり、これは真意にそわない重大な瑕疵といえるため、これにより錯誤による開腹手術への承諾は無効となり、結局、傷害罪は成立するものと考えられます。

麻酔をされていないことに気が付かないほど思い詰めた女性に素人手術をほどこして罪を問わないわけにはいかないのです。

 

 

法理メール?  * 発行人によるメールマガジンです。

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