2005/04/12

信義則:民法の手投げ弾

UFJ銀に9億円賠償命令 相続税指南、土地購入勧め融資(産経新聞)

「UFJ銀行の行員に勧められ、十億円を借りて不動産を購入した男性(故人)の妻が、銀行の説明をめぐり損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁が「銀行は内容を説明すべき信義則上の義務があった」として、UFJ銀行に約九億円の支払いを命じていたことが十一日、
分かった。」

民法1条2項をご覧ください。

第1条2項〔信義誠実の原則〕

「権利の行使及び義務の履行は信義に従ひ誠実に之を為すことを要す」

市場(わたしたちの取引)のことは市場に任せておけば一番健全に発達する、この思想がアダム・スミスらが唱えたレッセ・フェール(自由放任)です。

私たちの民法もこれを私的自治の原則という名のもとに取り入れています。

しかしレッセ・フェールが強いものはとことん勝ち、弱いものはただ息を潜めて生きていくだけだという側面が徐々に明らかになるとマルクスやケインズが統制経済を主張しはじめました。

書かれたルールにさえ沿っていればなにをどうしようといいのだといういわばなんでもアリの状態では、理屈に虐げられ奥歯をかみしめる人々が現れることはあきらかでしたので、民法もその1条でまず各人の権利に限界を付けています。

その2項が信義則です。

信義則は民法というルールのもとわたしたちが財産をふやしていこうとするとき、相手方に矛盾した態度をとらないこと、法を守ってから法を利用すること、事態が激変したら寛容になること、放っておいた権利はあきらめることを要求します。

これらをそれぞれ禁反言の原則、クリーンハンズの原則、事情変更の原則、そして権利失効の原則と呼びます。

しかし信義則は一応民法に書かれている通りの約束に則って行動した相手、今回のお話でいえばUFJ銀行に向かって理論的な反論を吹き飛ばす手投げ弾を投げるようなものなので、これを判決に持ち出すときは相当慎重にならなければいわば民法の自殺になりかねません。

UFJは税法における当時の死亡特則を本人に伝えませんでしたが高裁はこの態度をもって、信義則に反するとしてとうとう手投げ弾を炸裂させました。

その時ゆっくりのぼった硝煙の向こうに見えた笑顔は、家族を案じて銀行の言うがままになり思わぬ負債を負わせてしまった亡くなったご主人のものだったはずです。
 
 

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2005/03/11

横槍で剥がれるものを所有とは呼ばない

新株予約権発行差し止めの仮処分 ライブドアの申請認める (朝日新聞)

商法254条の2項をご覧ください。

第254条〔取締役の選任,会社との関係〕

「会社は定款を以てするも取締役が株主たることを要すべき旨を定むることを得ず」

法律上、株主資格と取締役資格とは254条2項により切り離されています。

このような会社の所有者は企業経営に直接関与せず,企業経営が出資者の資格から切り離された経営専門家に委ねられる状況を所有と経営の分離と呼びます。

所有と経営の分離は所有者に「お前はひっこんどれ」とはいっていません。

むしろ経営者に「お前には所有権はないんだぞ」ということを念押ししています。

この大騒ぎ、根底には我々が「所有」という資本主義の種を完全に理解しきっていないという長年の問題が横たわっています。

川島武宜先生は名著「日本人の法意識」のなかで、自分の学生に懇願されて本を貸してやったところ2年も放っておかれ、返却を請求すると全く悪びれず鉛筆で線引きされた本が帰ってきた話を象徴的にお書きになっています。

学生は手中に本をおさめることで次第に川嶋先生の所有権というものを極日本的にだらしなく処理してしまいます。

所有というものが完全に体得されていないのはなにも日本だけではありません。

他のアジア諸国やかつてのソ連においても、所有は変形理解されてきました。

所有は絶対を保証されてはじめて経済活動はその公平な気圧をたもてます。

所有が絶対であるとは、所有物の処分になんの横槍も入らないということです。

マックス・ヴェーバーは近代資本主義が目的合理性で駆動し、目的合理性は可計算性であることをあきらかにしました。

それゆえ所有の絶対こそ近代資本主義の糊になるのです。

所有権と所有物の間を真空状態に保たず、様様な因果律が一物に及ぶことを許すなら、権利主体である我々が地表に落とす影も限りなく薄くなっていきます。
 

法理メール?

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2005/02/08

買ったら二度と手放すなとバフェットは言った

ライブドア、ニッポン放送株の35%取得 大株主に

商法の241条をご覧ください。

第241条〔議決権の数,株式相互保有の場合の議決権の制限〕

「各株主は1株に付1個の議決権を有す。但し一単元の株式の数を定めたる場合に於ては一単元の株式に付1個の議決権を有す」 

株式会社の所有権をすさまじくみじん切りにした紙片、それが株券です。

なのでなるべく元の形(1/1)に近い数の紙片を集めた人は、大きな割合で会社の企業経営に参加したり、その企業があげた利益の分配にあずかることができます。

一方、大きくお金を集めて大きく収益するための人類最大の発明品、株式会社は、その性格上資産も非常に大きなものになります。

しかし本来の所有者であるべき株主は、証券の民主化によって分散されており、株価と配当金には関心があっても、資産そのものについては無関心で、むしろ知ろうとする意欲など持っていません。

ただし株式投資の王道、いわゆるウォーレン・バフェットなどがするファンダメンタル投資はこれと異なります。

企業の資産を正しく計算し、これを株式数にみじん切りにした価格より、現在の株価の時価が不当に低いとみれば、猛然とこれに買いを入れ、そして所有したが最後、二度とこれを手放しません。

株式はその本質において、余剰資金を長期的に増やすためのものであり、本来ギャンブルのような短期売買に投じるものではありません。

ニッポン放送は大量のフジテレビ株式を保有しており、堀江社長はニッポン放送というマジックハンドでフジテレビをつかみました。

今後の成り行きはライブドアが株式投資を果たしてどのように認知しているかにかかっています。
 

(Copyright 恵比寿法律新聞)

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2005/01/01

男は制度をコケにしつづけ、最後に制度に食われ始めた

「堤義明氏の居宅、38年間未登記 相続税対策か 」(朝日新聞)

「66年に建築されてから未登記の状態が続き、今月2日にコクド所有として登記された。不動産登記法は、建築物は築後1カ月以内の登記申請を義務づけており、コクドは同法に違反していた恐れもある。」

不動産登記法を見てください。

第93条〔建物の表示の登記申請〕 

「建物を新築したるときは所有者は一个月内に建物の表示の登記を申請することを要す」

不動産の物権変動を公示する方法は登記のみです(177条)。

ここで登記とは、国が作成管理する登記簿に、物権変動の事実およびその内容を記載すること、または記載された内容をいいます。

不動産はもっとも高価な商品といえます。

このため不動産取引の周辺には昔から地面師など詐欺集団が棲んでいます。

不動産登記法は不動産の権利関係を明瞭にするため設けられた登記制度の方法や記載事項を定めた法律です。

存在するものを登記しないという、登記制度をコケにした行為は、実質的には国税を圧迫し、形式的には立法者の顔に泥を塗っています。 


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2004/12/19

公正という幻想を株主は追わない

西武鉄道、取締役会7年も開かず

「複数の元取締役は「堤義明前会長と、その全面委任を受けた前社長の意向が会社の方針で、開く必要がなかった」と話し、同社も開催していなかった事実を認めている。取締役会は最低でも3か月に1回開くことが商法で義務づけられており、罰則規定はないが、識者は「重大な法令違反で、株主への背信行為」と指摘している(読売新聞)」

商法の260条の3項をご覧下さい。

第260条

「3 取締役は3月に1回以上業務の執行の状況を取締役会に報告することを要す」

なぜ260条に背いて、取締役が取締役会を開かないことが株主への背信行為にあたるのでしょうか?

国の仕組みでは私たち国民が国会議員を選び、議員が国会で総理や法律を決め、総理が法律を執行し、裁判所が運行状況をチェックします。

同じように株式会社では私たち株主が取締役を選び、取締役会が代取や決議を決め、代取がこれを遂行し、監査役が、チェックします。

つまり取締役会が行われていなかったという状態は、国でいえば総理がやりたい放題に国の方針を決めているようなものなのです。

後の頼みは監査役だけですが、監査役会社が構造上本来の意味で機能できていないことは誰もが気づいています。

逆に言えばアクセル全開に会社を支配したければ、取締役会と監査役会を有名無実化してしまえばいいのです。

そして今も出資金という多くの利権の集まる大きな会社でそれが行われています。

しかしある意味で、株主が株式の売却益だけに集中し権力者の公正などという幻想に必要以上に執着などせず会社の経営にかかわろうとしない態度は、権力委託者と受託者の関係において正しい選択なのかもしれません。

なぜならあなたもわたしも現実問題、もしその椅子に座ることが許されるのならば、きっと三日も権力を濫用することを我慢できないにちがいないのですから。
 

 
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